犬を飼うとしたら、あなたはオスとメスのどちらを選ぶでしょう。
犬選びで、性別は問題になるのでしょうか。
人間の世界では、相手選びに性別がもちろん問題になります。
そして男性か女性かで着るものや行動、そして現代の進んだ状況の中でさえ、職業や社会的役割が変わってきます。
というわけで、犬選びでオスメスどちらがいいか、意見が分かれるのも当然です。
そしてそれらの意見には、人間社会の性別に対する考え方が反映されています。
男性と女性のちがいについては、昔から広く流布された見方があり、それが犬の場合にもあてはまると思い込む人は多いのです。
その例をいくつかあげてみます。
たいていの人が、メス犬のほうが飼いやすいと考えています。
ブリーダーは、犬を買いにくる客から「かわいい女の子」を指定されることが多いといいます。
理由はオス犬のほうがメス大より気性が荒く、優位に立ちたがるという思い込みにもとづいています。
これは人間世界における思い込みの延長です。
男性は女性より肉体的な攻撃にでやすく、支配的であり、犯罪行為に手を出し、軍隊や警察など暴力とかかわる職業に就くのも男性が多いと思われています。
しかし人間と同じく犬の場合も、オスとメスで明らかに攻撃性がちがうということは、科学的に実証されていません。
犬同士の争いで、メスよりオスのほうが体をこわばらせて相手を威嚇し、挑戦をしかけることが多いのはたしかです。
それは、社会的順位を確立するための、形ばかりの威嚇行動がほとんどなのです。
こうした行動が示されると飼い主は驚きますが、犬が傷つけあうことは滅多にないのです。
メス犬は威嚇行動をあまりしないですが、一般的にオスより独立心旺盛であり、頑固で、縄張り意識が強いのです。
じつのところ、メスのほうがオスよりはるかに自分の支配力を行使したがります。
オスは犬社会の規則に違反した相手や順位を無視した相手を許すこともありますが、メスは許しません。
犬の喧嘩はメス同士が多く、しかも警告の前ぶれなしに起きることが多いのも、そのためです。
そしてメス同士の喧嘩は、オス同士の儀式的な喧嘩ではなく、「全面対決」になりがちなのです。
オス同士の場合は、相手に向かって歯をむきだしたり、控えめに噛みついたりして、怪我を負わせずに脅すだけのことが多いのです。
もう一つ昔から信じられているのが、オス犬は女性と、メス犬は男性と相性がいいという説です。
これは人間の男女、つまり異性同士がペアを組むほうが、同性同士よりしっくりするという考え方の延長です。
実際には、オス犬は一人の人と強い絆をもちたがるのに対し、メス犬は一人にこだわりません。
ただし、この問題も大種によって大きな差があります。
飼い主の性別は、この傾向にほとんど影響をあたえないようです。
それ以上によく耳にするのは、メス犬のほうが愛情深く、飼い主の気持ちに応える、という説です。
これは、女性のほうが「母性的」でやさしく、思いやりがあるという、人間社会で流布している固定観念の移しかえにすぎません。
メス犬は、態度が変化しやすく気むずかしい傾向が見られます。
オス犬の行動のほうがわかりやすく、気分屋的なところは少ないようです。
といっても忘れてならないのは、気分の安定度については性別よりも大種によるちがいのほうが大きいことです。
バセットハウンド、ブルドッグ、ニューファンドランドはおだやかであることが多いですが、チワワ、ダルメシアン、テリアは興奮しやすく、過敏気味です。
性別によっても差はありますが、通説ほどではないのです。
興奮しやすい犬種では、メスのほうがオスよりカッとしやすく過敏なのです。
感情の起伏がおだやかな犬種では、性別による差はほとんどありません。
人なつこさとやさしさという点については、事実は通説とちがっています。
一般にメス犬は社交的で、注意を引こうとして近寄ってくることが多いです。
だけど、それに成功するとさっさと立ち去り、ほかのことをしはじめます。
かたやオス犬は一定して人なつこく、活発で、人の愛情を求めたがります。
オスはメスより飼い主に忠実ですが、外向的でもあります。
一般に、オスはメスより柔軟にほかのペットを受け入れ、子どもだちともすぐに仲良くなります。
メスは、幼い子どもに強い関心をもちます。
それはたぶん、子どものフェロモン(動物が発散する特殊な匂い)が、子犬のものと非常に似ているためだと思われます。
オス犬とメス犬とでは歳の取り方も違い、それが性格に影響をあたえます。
オスはメスよりも、子ども時代の茶目っけや呑気さが長く残ります。
オスのほうが、終生遊んだりふざけたりするのが好きです。
メスは、成長するにつれておとなしく、落ち着いた感じになります。
その姿は、人間の場合と重なるようにも思えます。
おじいさんは、歳をとってもまだ口が達者で、孫と一緒にふざけあうイメージがあります。
いっぽうおばあさんは、キッチンで黙って仕事をしています。
このような違いはあっても実際には、オスでもメスでも犬はいいペットになれるのです。
たとえばある女性は、犬を飼うときはいつもメスと決めています。
その理由は「私が着替えているあいだ、男の子に横目で見られたりしたくない」からだと言います。
また、べつの女性はオス犬ばかり選ぶ理由を、こう話しました。
「暴漢に襲われたり強盗に入られたりしたとき、男性にそばにいてほしいからよ。私と一緒に恐怖で引きつっちゃうような、女の子はだめ」
『犬があなたをこう変える』スタンレー・コレン著より引用
オスメスどちらを選ぶかは、飼い主の好みや、個人的な考え方の問題のようです。
自分好みの性格の犬種なのか?
家庭犬向きな犬種のか?
オス犬かメス犬かよりも犬種による特徴が重要なのですね。