小さい頃から犬が怖くて、近づくことも触ることもできず、犬がいるとゴミ捨てにさえ車で行っていた私が、なぜ犬を?
それも、こんな怖い顔の野良犬を飼うようになったか?
これにはふかーいわけがありました。
今から5年ほど前でしょうか?
近所の周りに2年近くうろうろしていた野良犬がいました。
その犬は、黒のタワシのような短毛。遠くから見ると、犬の中でも恐ろしさの1位2位を争うようなドーべルマンと警察犬を混ぜたような姿。
性別オス。黒いから「クロ」と呼んでいました。
体重18キロぐらいの中型犬で推定3歳。夜遅く、私や夫が帰宅すると、クロだけはいつも待っていてくれました。
いつしか、家が近づくと、周りにクロの姿を探すようになっていました。
「顔のわりには、おとなしい犬なんだね?」なんて話していたのは初めだけ。
オス犬のせいか、散歩に歩くオス犬を見つけては取っ組み合いの喧嘩の毎日。趣味も特技も喧嘩という、牙むきだしの恐ろしい犬。
見かけも性格も怖い犬を飼ってくれるような人はいないまま2年の月日は流れました。
ある日のことでした。
「あの野良犬、昨日保健所につかまったんだってね」と仕事中、人の話が耳に入りました。
ぐっと涙がこぼれそうな気持ちを抑え、笑顔で仕事。心はもうクロのことばかり。信じられない気持ちのまま自宅に帰ったら、やっぱりクロはいませんでした。
「犬もわかるんだね。連れていかれるとき、あきらめておりの中でおとなしくすわっていたらしいよ・・・」と聞いた言葉が頭の中をぐるぐる回っていました。
「今すぐにでも迎えに行ってあげたい」夫も気持ちは同じでした。
しかし、一時の感情だけで動物を飼っては逆にかわいそうな結果になってしまう。
本当に責任を持って飼えるか?
犬を飼ったことのない私たちが、成大の野良犬が飼えるのか?・・・不安だらけでした。
次の日も、またその次の日も、自問自答の長い時間。答えは出ないままクロが処分されてしまう前の日になりました。
初めに口を開いたのは夫でした。
「殺されるのをわかっていて見捨てることはできない。ここで目をつぶってしまえば、これからすべてのことを見捨てそうだよ・・・人間としてクロを救わなきゃだめだよ」という言葉で引き取ることを決心しました。
近所の人からも、
「お願いします。なんでも手伝うから連れてきてやってください」と応援を受ける中、クロを探して保健所に電話。
あちこちたらい回しの末、ここから一時間半も離れた最終処分所までクロは送られていました。
簡単にクロを引き取れると考えていた私たちへのセンター員の返事は、意外なものでした。
「飼い主じゃなければゆずれません」「そんないわくつきの犬飼ったって、ストレスでかむようになったり大変ですよ」とのことでした。
そう言われ、夫が「じゃあ飼い主という形でいいので譲渡してください」と頼むと、
「それなら、今までの責任は取れるんですか?」耳を疑うような返事でした。
野良だったのに、今までの責任ってなんですか?
飼い主がいるはずないじゃないですか!
野良だったのですから・・・。
クロに明日はないのです。
電話では話がつかないと、私たちは、仕事を抜けてクロを引き取ってくるために直接向かいました。
車中で「もし、クロが興奮していて、私たちを見ても、うなっていたり、かみついたり、クロが帰ることを拒否したら、もうどうすることもできないな・・・そのときは、さよならだけ言ってこようね・・・」と夫に言われ、
私の口から出た言葉は「さよなら言うんだったら、最後の姿は見たくないよ・・・見ないであきらめたい」と、涙ばかりポロポロ
センター員に、連れていかれたところは、冷たいコンクリートづくりの建物。
中に入ると、ワン!ワン!たくさんの犬が吠えていました。
1目目・・・2目目・・・おりには、札がつけられています・・・死を待つだけの犬たち。
そのとき、「あの犬です!」と、夫の声!
指の先には、きょとんとしたクロの姿!
「クロー クロー」私の叫んでいる声は涙でつまってしまいました。
クロは、私たちの姿を見て、しっぽを振っています!こっちに来たくって、立ち上がっています!
首に縄をつけられて、連れてこられたクロは、私の胸に頭をうずめてきました。
不思議なことに、クロを怖いなんていう気持ちは、全くなくなっていました。生きていてくれた
ことが嬉しくって、ぎゅっと抱きしめました。
何日も、ここで夜を過ごしてあきらめていたのでしょう・・・クロとともに夜を過ごしたもう1匹の犬もクロを見つめていました。
私たちにべったりのクロの姿を見たセンター員は、しかたなく返してくれることになりました。
もちろんたくさんの書類へのサインを書かされ、クロのお泊まり代を払い、一生分のお説教もいただきながら・・・。
クロを連れて帰れるなら、そんなことはなんともなかったのです。
やっとクロは開放され、前科一犯、仮釈放中というところでしょうか?
帰りに、必要なものは全部買い込み、家に着いたら、近所の方がみんな集まって、クロの帰りを待っていてくれました。
どの方の目にも涙・・・この瞬間、引き取りに行ってよかったと、しみじみ思いました。
次の日には、ノミやダニだらけたったクロに予防注射・薬、健康診断をやってもらい、登録を済ませ、ついに家の子になりました。
たくさんお金がかかっだけど、安心してぐっすり寝ている姿を見たら、これでよかったと思っています。
子供の頃、誰かに捨てられ、2年間野良犬をやって、今回最終処分所まで送られてしまったクロ。
クロの心は、たくさん傷ついて、そして、人間への信頼もなくしていたようです。
鎖につないでおけば、他の犬が来て喧嘩してるし・・・
宅急便屋さんは、牙むきだしのクロに腰抜かしているし・・・
恐ろしがって、誰もチャイムを鳴らさないし・・・
毎日が大騒ぎです。
先日も脱走して、警察に保護されて、前科二犯になりました。
土手にいるオス犬にずっと吠えていて、私にゲンコツもらったり、知らないうちに近所の方においしいもの
をもらっていたり・・・。
これからも大変なことがあるでしょう・・・。
でも、獣医さんの「しつけは何歳になってもできるんですよ」の言葉を励みにがんばっています。
クロの顔も日に日に優しくなってきて、犬との生活に慣れた頃。散歩の途中、クロが土手で生まれたてのまだ目も開かない仔猫を拾ってきて助けました。
私たちがクロを救って、今度はクロが仔猫を救って、命はつながっていくのだと思います。
ペットショップにいるような豪華で綺麗な犬や猫ではないけれど、命の重さはみんな同じです。私にとっては、かけがえのない大切な宝物。ペットと言っても出会い方は人それぞれ。
怖いと思っていた犬は、今は一番犬切な家族になりました。
そんなクロと仔猫と新米飼い主の格闘生活は、まだまだ始まったばかり。
今日も、空飛ぶ勢いで引っ張られながら土手まで散歩です。
「ペットと私」より引用
保健所一歩手前で引き取られたココが我が家に来た時も大変でした。
人間を信用してないし。
大きな声を出すとお座りして震えて動かないし。
家の中全部がトイレだし。
うんPは食べるし。
もう毎日、大騒ぎ。
でも、徐々に慣れて本当になついて可愛い犬になりました。
どうしてこんな素性のイイ子が捨てられることになるのか不思議です。
6歳になった今は生まれた時から我が家に居るような顔をしています。