犬は、遊びを通して行きすぎた攻撃が群れの中ではまず絶対に許されないことを学びます。
子犬は、遊びの最中に初めてほかの子犬に噛みついたとき、力を入れずにやわらかく噛まないと、悪いことが起きるのがわかります。
たとえば、遊び仲間の耳に小さな鋭い牙を立てると、相手は悲鳴をあげ、友だちは遊びをやめてしまい、母犬から叱られます。
仲間と仲良く遊ぶためには、本気で攻撃してはいけないことをこうして学びます。
遊びには追いかける、噛む、跳び上がる、押し合う、取っ組み合う、唸る、喧嘩の真似をするなどの行動がふくまれているから、これらがいずれも本気ではなく、遊びだと相手に伝えることが大切です。
そのために、犬はさまざまな遊びの信号を使います。
<前脚をのばして体を低くし、腰と尻尾を上げ、遊び相手の顔をまっすぐに見る>
これは典型的な遊びのおじぎで、『遊ぼうよ!』を意味します。
跳び回って遊ぼうという誘いに使われ、この動作のあと突然猛烈な勢いで走り出したり、遊び相手に跳びかかろうとしたりします。
そして追いかけっこや、くんずほぐれつの格闘が始まります。
この『おじぎ』は遊びを誘うだけではありません。
実際には一種の句読点のようなもので、遊んでいる最中に、これはこれはただの遊びだと思い出させる役目をはたします。
たとえば、攻撃の真似ごとで相手に向かって突進する前に、犬はこの遊びのおじぎをします。
相手に強すぎる体当たりをしたり、相手を倒してしまったりすると、犬はすぐ遊びのおじぎをして、今のはふざけてやったことで、本気で攻撃したわけではないと伝えます。
この遊びのおじぎが、獲物をおびき寄せるために使われることもあります。
犬は開けた場所で放されると、狂ったように走り回ることがあります。
飛んだり跳ねたり、ジグザグに走ったり、股のあいだに尻尾をはさみこんでぐるぐる激しく走り回ったりします。
この激しい運動の合間に一瞬遊びのおじぎがはさまり、またすぐに勢いよく走り回り始めます。
このはしゃいだ行動は、もともとは狼や狐が狩りをするときの戦略でした。
目茶苦茶な『ダンス』を踊って、獲物となる動物の注意を引くのです。
なぜ狂ったように動き回っているのかたしかめようと動物が近寄ると、いきなり襲われたり、待ち伏せた群れに倒されたりするのです。
1分30秒あります飛ばしながらご覧ください。
臆病な子犬はおとながおじぎで誘っても、遊ぼうとしないことがあります。
年長の犬はそれがもどかしく、なんとか子犬を遊ばせようと骨を折ります。
そこで登場するのが『安心させるための信号』です。
よく見かけるのが、上位の犬が幼い犬に近寄って、みずから仰向けに寝ころがり、完全に服従的な姿勢をとる行動です。
この順位の低い信号を使って、『わたしと遊ぶあいだは、きみがリーダーになれる』と子犬に伝えます。
自分より大きくて年上の犬に服従的な行動をとらせたことにやや気をよくして、子犬はそばに寄っていきます。
子犬が近づくと、年長の犬は遊びのおじぎをし、一緒に跳ね回り始めるのです。
犬の遊び方の種類はそれほど多くないのですが、遊ぶとなると夢中で遊びます。
おそらく一番人気が高いのは
『あげないよゲーム』で、これは何かをくわえて勢いよく走り出し、追いかけられるのを期待する遊びです。
遊び相手から数センチしか離れていないところにわざと物を落とし、相手がそれをねらって跳び出すのを待つこともあります。
相手が跳び出したとたんに、すぐにそれをくわえ直して、あとを追わせるのです。
物を相手にもくわえさせると、『綱引き』が始まります。
誰が誰を追いかけるかは入れ代わることが多く、いったんつかまえると、ゲームは定番の『取っ組み合い』に変わり、犬をよく知らない人が見るとどちらか一方が殺されるのではないかと思うほどの騒動になります。
もうひとつのゲームが『突撃!』で、
一頭がべつの一頭をめがけてまっしぐらに走ってきて、相手の鼻先すれすれのところでくるっと方向を変える遊びです。
見た目にはひやりとさせられますが、これが成功すると、たちまちゲームは『逮捕』へと変わり、今度は突撃された犬が相手を追いかけ始めるのです。
犬が遊ぶ姿を眺めるのは楽しくて心が和みますね。
『犬語の話し方』スタンレー・コレン著より引用
アナタの愛犬も『あげないよゲーム』しますか?