犬は、私たちが命と呼んでいる微妙で捉えがたいものを感じとれるようです。
ウィリアム・ハリソンが飼っていたラブラドールーレトリーバー、ミッキーの話をします。
ハリソンの家には、娘のクリスティーンヘの贈り物だったチワワのハーシーもいました。
身体の大きさはずいぶん違っていても、とても仲が良い二頭の犬でした。
ところが1983年のある晩、チワワのハーシーは通りで車にはねられました。
クリスティーンが泣きじゃくるいっぽう、父親は死んだ犬を柔らかい袋に入れ、庭に浅い穴を掘って埋めました。
家族の悲しみはミッキーにも伝染したらしく、みんなが寝てしまったあとも、沈んだようすで墓をじっと眺めていました。
数時間後、家の外で狂ったように哀れっぽく啼く声と地面を引っ掻く音がして、ウィリアムは目を覚ましました。
外に出てみると、恐ろしいことにハーシーを入れて埋めた袋が掘り起こされて墓のそばにころがっていました。
そのわきにはミッキーがいて、興奮しきったようすでした。
ハーシーの身体に覆いかぶさり、狂ったようにその顔をなめ、鼻をこすりつけ、軽く足でつつき、まるで犬式『人工呼吸』をほどこしているようでした。
愛するものを甦らせようとむなしく努力するその姿は、ウィリアムの涙を誘いました。
かわいそうだけどミッキーをどかせようと近寄ったとき、彼は小さな犬の身体がぴくりと動くのに気づきました。
ハーシーは弱々しく頭を持ち上げてクーンと啼きました。
ミッキーは自分の中の鋭い感覚で小さな命の火がかすかに灯るのを感じとり、死に抵抗する本能でなにをすべきか悟ったのでしょう。
『哲学者になった犬』スタンレー・コレン著より引用
犬はこのように科学的に説明のつかない能力を持っているのですね。