犬がお尻の臭いを嗅ぎたがるわけ

犬がお尻の臭いを嗅ぎたがるわけ 犬の性質

 

犬がなぜお尻の臭いを嗅ぎたがるのか?

 

【とある昔話より】

神さまは犬を作ったとき、犬を特別かしこい生き物にした。

犬にこっそり言葉をあたえ、犬同士で話ができると同時に、人間の言葉も理解できるようにした。

 

そして神さまは、犬たちにこう言った。

 

『おまえたちにはなすべき仕事がある。

それは人間の役に立つこと。

人間のしあわせを願い、なぐさめをあたえ、手助けをし、できるかぎり人間とともに働くことだ。

 

それをおこなうあいだ、なんでも好きなことをしてかまわないが、踊るのだけはやめなさい。

不思議に思うだろうが、人間は誇り高いと同時に、警戒心も強い。

 

人間は自分たちこそ地球上で一番頭のいい生き物で、自分たち以外に言葉を理解し話ができるものはいないと考えている。

そして音楽を作って楽しめるのも、自分たちだけと信じているのだ。』

 

それを聞いて、犬たちはけげんな顔をした。

 

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そこで神さまは説明を加えた。

『おまえたちに人間の言葉が理解できることを、私は知っている。

だが、おまえたちが話すのは犬の言葉だけで、人間の言葉を話さないから、人間はそれを知らない。

そしておまえたちに音楽が楽しめることも、私は知っている。

 

だが、おまえたちには音楽が作れないので、人間はそのことにも気づかない。

しかし、おまえたちが踊るところを見たら、人間は犬にほかのこともできるのではないか、ひょっとしたら人間の言葉がわかるのではないかと考えはじめる。

 

人間は警戒心が強いため、犬が近寄ってくるのは、利用しようという魂胆があるからではないかと疑いはじめる。そして、おまえたちを遠ざけようとする。

 

自分たちの秘密や計画を、聞かれまいとするだろう。

犬が悪だくみをして、自分たちに害をあたえるのではないかと考え、住いから追い払おうとするだろう。

私はおまえたちを人間の友だちとして作ったのに、すべてが台無しになってしまう。

だから、決して踊っているところを、人間に見られてはならない』

 

そこで犬は本当は音楽が好きで、リズムにあわせて体を動かすのが大好きだったのだが、神さまに言われたとおり、踊らないことにした。

しばらくのあいだは、なにもかもうまくいった。

 

犬は人間の言葉を聞いてその計画や気持ちを理解し、必要なときは仕事の手助けをし、人の心をなぐさめることができた。

だがそれも、人間たちが開いた結婚披露の大パーティーのときまでだった。

 

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そのころ地球上には村が二つしかなく、村同士の交流はあまりなかった。

だが、片方の村の若者がもう片方の村の娘と出会って恋に落ち、結婚することになった。

つまり、二つの村のあいだに絆が生まれたのだ。

 

それを祝うために、村人たちは大宴会をもよおすことにした。

二つの村が合同で開くパーティーなので、バンドのメンバーもいつもの二倍になった。

ヴァイオリンもバンジョーも、ギターもベースも、アコーディオンも太鼓もすべて二倍。

そんなに大きなバンドが揃ったのは、はじめてのことだった。

 

二つの村の人びとがパーティーに集まったとき、犬たちも全員やってきた。

会場の外にたむろして、食べ物のかけらや残りものにありつけるのを期待したのだ。

だが、待っているあいだ、大編成のみごとなバンド演奏が犬たちの耳にいやでも飛び込んできた。

その音があまりに弾んで楽しげであったため、犬たちは体をゆすり、ステップを踏みはじめた。

 

突然、ハンサムな大型のコリーがこう宣言した。

『神さまは、犬にダンスはできないとはおっしやらなかった。

ただ、踊るところを人間に見られてはならないと言っただけだ。

いま、人間たちは会場の中にいて、われわれは外にいる。

だからちょいとばかりダンスを楽しんだって、わるいことはなかろう』

 

そう言うと彼はひょいと後ろ足で立ち上がり、くるくる回りはじめた。

すると彼のふさふさした尻尾が地面をはたき、彼の回りにもうもうと砂ぼこりが舞った。

 

それを見て仲間の犬が、声をかけた。

『おい、コリーさんよ、そのお尻にぶら下がってる尻尾をとったら、もっとうまく踊れるんじゃないかい?』

コリーは笑って、よしきたしと言い、そっと尻尾をはずすと地面に放り投げ、また跳ね回った。

 

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音楽は高まりリズムは調子がよく、犬たちはつぎつぎに自分の尻尾をはずしてつみあげ、踊りはじめた。

尻尾を放り投げ、コリーの尻尾ともども山にし、そろって踊りはじめた。

全員が後ろ足で立ち、音楽にあわせて跳んだりはねだりした。

陽気な調べにあわせて、キャンキャン、ワンワンと声をあげる犬もいた。

 

その声が、わざわいを招いた。

気配に気づいた人間たちが、犬がなにを騒いでいるのかと不審に思いはじめたのだ。

宴会場の大きな扉を開けるキーツという音がし、中の明かりが庭を照らした。

 

一頭の犬がハッとして、仲間に告げた。

『やめろ! 踊っているところを見られたら大変だ。急いで自分の尻尾をつけ直して、そしらぬ顔をするんだ!』

 

犬たちはすぐさま前足を地面に下ろし、尻尾の山へ走った。

そして最初に目についた尻尾をつかんでお尻につけ、人間が顔をだしたときはさりげなく、ふだんどおりに振る舞った。

 

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人間の一人が言った。

『とくに変わったことはなさそうだが、私はここで見張りをしていよう。妙なことが起きて、パーティーが台無しになったら大変だからな』

その人間は宴会が終わるまで、そこを動かなかった。

 

やがて会がお開きになり、出てきた客たちは犬に残り物をあたえたりしながら家路についた。

朝方、目を覚ました犬たちは、人間に気づかれることなく少しばかりダンスができたことに大いに満足していた。

 

だがそれも、朝の光の中で自分の尻尾をよくよく見るまでのことだった。

なんと、全員が自分のとはちがう尻尾をつけていたのだ。

いまお尻についている尾は、だれのものだかわからない。

だが、前の晩顔をあわせた犬は、全員そこにいる。

あまりに大勢の犬、あまりに沢山の尻尾!

 

やがてどの大も、さとった。

この先自分は、ほんものの尻尾を求めて、いつまでもどこまでも探し続けねばならない。

 

犬たちがたがいのお尻のあたりをプンプン嗅ぎ回るのは、そのせいだ。

神さまからもらった自分の尻尾に出会えないかと、調べているのだ。

 

昔話はここまで。

 

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科学的な説明は、この話ほどおもしろくないが、知っておいて損はない。

犬の鼻はフェロモンと関係のある臭いに敏感にできている。

フェロモンを分泌するのは、アポクリン腺と呼ばれる特殊な汗腺である。

 

人間もふくむすべての哺乳類は、この汗腺が生殖器や肛門部のあたりにとくに密集している。

このフェロモンの臭いには、フェイスブックなどのコミュニケーションサイトの自己紹介欄以上に、豊かな情報がつまっている。

 

個体の性別、年齢、健康状態、そのときの気分のほかに、生殖にかんする情報も満載されている。

雌が現在月経期にある、妊娠中である、出産したばかりである、などだ。

犬は、フェロモンの臭いから、相手の順位や感情にかんするメッセージも読みとる。

 

アポクリン腺が集まっている場所が場所だけに、フェロモンは犬の尿にまじることが多い(糞にまじることもある)、つまり尿をほかの犬が『読む』ことができるのだ。

 

というわけで、仲間たちがよく往来する道路にある消火栓や街路樹についた臭いを嗅ぐことで、犬は最近の情報をキャッチする。

言い換えれば、街路樹は犬界の最新ニュースを満載した新聞のようなものなのだ。

古典文学の連載読み物はなくても、ゴシップ欄や個人の消息欄はたしかに揃っている。

 

そしてほかの犬のお尻のあたりの臭いを嗅ぐことで、犬はそれ以上に明確なメッセージを受けとる。

 

犬にお尻の臭いを嗅がれて、嫌な思いをした人は多いだろう。

この行為も、犬同士の場合と理由は同じである。

 

人間もお尻のあたりにアポクリン腺が集まっていて、フェロモンの臭いがとりわけ強い。

そして犬はほかの犬に出会ったときと同様の関心を、知らない人間に対しても抱く。

その人物の臭いに性的なものがまじっているときは、とりわけ興味をそそられる。

 

だがなかにはたんなる好奇心から、人間の股ぐらに鼻を突っ込もうとする犬もいるのだ。

『犬があなたをこう変える』スタンレー・コレン著より引用

 

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自分の尻尾を探すことに熱心な犬の飼い主は気をつけましょうね。

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