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老犬ホームという選択

      2018/04/14

 

これは老犬ホームで働いている方が書いたお話しです。

 

老犬ホームは老犬が最後を迎えるまでの時間を過ごす場所です。

老犬ホームに犬を預ける方は、ここ最近、とても多くなっています。

ひとり暮らしの高齢者が増えている現代では、散歩などの世話が困難になって、やむをえず老犬ホームに犬を頂けるケースが多々あります。

 

子犬やまだ年若い犬ならば、里親になってくれる方も出てくるでしょう。

でも、年老いた犬の場合、里親はほとんど見つかりません。世話をしてくれる人がいなくなった老犬は、そのまま死んでしまうか、保健所に送られてしまうのです。

 

若い人でも、老犬ホームを利用される方はいます。

犬が若いうちは楽しく暮らしていたのに、老犬になったり、病気になったりして、どうしても介護ができず、ホームに預けるというケースです。

なかには、介護が面倒だからとホームに頂け、そのまま一度も面会にすら来ない人もいます。

 

皆さん、いろいろな事情を抱えて、老犬ホームにいらっしやいます。

 

犬にとっては、愛する飼い主のそばで最期まで暮らすのがに最も幸せなのでしょうが、この老犬ホームがあることで、保健所で始末されてしまう犬が、助かっているのも事実なのです。

 

そして、老犬ホームには、人間と犬との様々なドラマがあります。

 

つい最近、体験したお話しです。

 

その方は、フミヨさんとおっしやいました。

お歳は78歳。

都内のマンションで、一人暮しをされていました。

 

ご主人が引退をし、これからは夫婦でのんびり温泉旅行でも楽しもうと考えた矢先に、脳梗塞で倒れ、そのまま意識が戻ることなく、この世を去ってしまったそうです。

 

フミヨさんと、17歳になるコリー犬のマリーを残して。

フミヨさんがここを訪れる2年前のことだったそうです。

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息子さんはとうに独立し、家庭を築いておられました。

息子さんはフミヨさんにいっしょに暮らそうと誘ったのですが、フミヨさんはお嫁さんと折り合いが悪く、断ってしまったそうです。

 

誰かに気兼ねしながら暮らすよりも、マリーと気ままに暮らすほうがいいと考えたのです。

けれど、フミヨさんとマリーはどちらも高齢です。

 

二人だけの生活はなにかと難しい問題がたくさんありました。

なにより、マリーの世話がたいへんだったようです。

 

フミヨさんはマリーについて色々と話してくださいました。

マリーは1年ほど前に様子がおかしくなったそうです。

走るのが好きで、散歩が大好きだったマリーの足腰が突然弱り、まともに歩くこともできなくなってしまったのです。

 

それまでのマリーは、フミヨさんが歩く速度に合わせて、ゆっくり散歩をしてくれていました。

フミヨさんが、疲れた様子を見せると、マリーは立ち止まって、彼女を気遣い、目でフミヨさんの様子を確認します。

そして、彼女が歩き出すと、またマリーもゆっくりと歩き出すといった具合です。

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「まるで、私がお散歩に連れていってもらってるような感じでした」フミヨさんは、静かにそう言いました。

 

でも、マリーの足腰が弱ってからは、散歩に行くこともままならなくなりました。

 

「マリーは、散歩中にトイレを済ませるようにしつけておりましたから、散歩に出ないと、用を足すこともいたしません。

辛かったんでしょうね。

あんなに温厚で優しいマリーが、ときに、私を攻撃するような態度まで見せるようになったんです。

辛かったんだと思います」

フミヨさんの目には、涙が浮かんでいました。

 

「タクシーでマリーを病院にも連れていきましたが、老いが原因なので、治すのは難しいと言われました。

車いすも考えましたが、やはり高齢すぎて、トレーニングをさせることもできませんでした」

マリーの散歩は断念せざるを得ませんでした。

 

仕方なく、フミヨさんは、自宅に用意したトイレでマリーが用を足せるよう、トレーナーさんをお願いして、訓練をしてもらったそうです。

 

「お陰様でなんとかトイレで用を足せるようにはなったんですが、最近は、おもらしをしてしまうことも多くて・・・。

マリーはプライドが高い犬でしたから」

 

それでもフミヨさんは、なんとか自分で世話をしようと頑張ったそうです。

でも、マリーの容態は悪化し、衰弱はひどくなる一方でした。

 

「私も、最近、ちょっと体調が忠くなってしまいまして・・・。

マリーとは離れたくありませんが、もし、このままマリーを私のそばにおいておいたら、マリーは辛いままです。

どうか、マリーをお願いします」

 

フミヨさんは、こう言って私たちに深々と頭を下げました。

こうしてマリーは老犬ホームに入居しました。

 

いろいろ検査をしましたが、やはりマリーは老衰でしたので、栄養を与えることぐらいしかできません。

最初のうちは少し落ち着いていたのですが、最後は寝たきりの状態になりました。

 

マリーが入居してから亡くなるまでの3か月あまり、フミヨさんは、毎週のようにホームを訪れ、マリーに会いにいらっしゃいました。

マリーはフミヨさんが来るととても喜び、動かなくなった身体を必死に動かそうとしました。

 

お二人のお気に入りは、2階にあるテラス。

二人で窓際の席に座り、長い間、しずかにおしゃべりをしていらっしゃいました。

話題は、亡くなられたご主人のことが多かったように思います。

 

もちろん、お話をしているのはフミヨさんだけですけれども、私の目には、マリーもフミヨさんに何か語りかけているかのように感じました。

フミヨさんとマリーの後ろ姿を見ていると、なんだか仲の良い姉妹のようでした。

 

マリーの容態が急変した時、フミヨさんは、知らせを受けて、タクシーで飛んでいらっしやいました。

マリーはすでに虫の息でしたが、フミヨさんが着くまで必死で頑張っていたのでしょう。

フミヨさんがマリーの手を取ってものの数分で、静かに息を引き取りました。

 

「長いことありがとう。

あなたのおかげで、とても幸せだった。

苦しかったでしょう。私を待っていてくれて、ありがとう。

おやすみなさい、マリー」

フミヨさんは、マリーの身体をいつまでもさすっていました。

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フミヨさんのたっての要望で、ホームでささやかな葬儀を行ないました。

 

それから2週間後のことです。

フミヨさんの息子さんから、ホームに電話がありました。

 

フミヨさんが亡くなられたという知らせでした。

 

「母はマリーの後を追うように逝ってしまいました。

マリーが穏やかに最期を迎えられ、ホッとしたんだと思います。

実は、母は、もう長くないと、1年前に医師から宣告されていました。

でも、マリーを残して死ぬわけにはいかないと、必死で頑張っていたんじゃないでしょうか。

母の身体も、とっくに限界を超えていたんです。母も辛かったと思います。

でも最期の顔は、役目を果たしたのか、とても穏やかでした。ありがとうございました」

 

息子さんのお話をうかがいながら、私は、フミヨさんとマリーが、あのテラスで肩を並べるように座っていた姿を思い出しました。

きっと今頃、フミヨさんとマリーは、天国で再会していることでしょう。

そして、そのそばには、ご主人もいらっしゃることでしょう。

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お幸せに。

亡くなった方におかけする言葉ではありませんが、

あのお二人の姿を知る私は、心の中で、フミヨさんとマリーに、

そう声をかけたくなるのです。

 

できれば最後まで一緒に居たいですね。

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