ワタシは毎朝レトリバーのココとの散歩で小さな公園を通り抜けます。
先日、その公園でココが突然、金網フェンスに向かって猛ダッシュしました。
何事かと思ったらフェンスの向こうに猫が居ました。
お互い毛を逆立てて金網フェンス越しにニラメッコしてますが、猫が走って逃げてくれました。
ココは追いかけたくてフェンスの前でジタバタ。
どうしてこんなに猫を追い駆けたいのか不思議です。
その理由を書いたお話がありました。
『どうして犬は猫を追いかけるのか?』
そのいわれを祖母のリーナが話してくれたことがある。
祖母が聞かせてくれるのはリトアニアやラトヴィアの伝説が多かったから、この話もおそらくそうだと思われる。
それは、アダムとイブがエデンの園を追われてから間もないころのことだった。
不思議な力が働いていた時代で、動物たちはまだ言葉を話せた。
動物は神さまから言葉を話す力を授かっており、めいめい自分の名前をアダムの耳にささやき、その名前が人間の言葉に取り入れられた。
だが、ときとともに動物は言葉を忘れてしまった。
エデンの園の外には敵や危険があふれていたから、アダムはとても苦労した。
くる日もくる日も生きるために狩りをし、畑を耕した。
夜になっても気は休まらなかった。
野獣たちが彼の乏しい食糧や家畜をねらい、アダムー家の命まで奪いかねなかったのだ。
アダムは眠ることができず、心身ともに疲れはてた。
犬は野生の動物として森で暮らし、生きるために獲物を狩り、死肉をあさっていた。
アダムの窮状を見た犬は、これはおたがいにとってチャンスだと考えた。
犬はアダムのところに行って、取引をもちかけた。
「あなたが眠れるように、夜はわたしがあなたの家を見張ります。
あなたが豊かに暮らせるように、狩りの手伝いや家畜の番もしましょう。
そのかわりにわたしが望むのは、あなたの家の火のそばで寝て、食べ物を分けてもらい、年をとって働けなくなってからも面倒を見てもらうことです。」
犬が尾を振るのは、正直で本当のことを言っている証拠だ。
そこで彼は話に応じ、おたがいに約束を交わした。
この取引は成功だった。
アダムは夜眠ることができ、獣が近づくと犬が吠えて警告を発したので、犬と力を合わせて追い払うことができた。
犬が獲物のあとを追ってくれたので、狩りも手際よくでき、家畜の世話も犬が手伝ってくれたおかげで、ずっとらくになった。
そして約束通りアダムは犬に食物をあたえ、面倒を見、火のそばに寝床を用意してやった。
そのころ、猫もまた森に住んでいた。
猫はあまりしあわせとは言えなかった。
本来怠け者で一日じゅう眠っていたいのに、生い茂る薮でネズミを追ったり、小鳥をとるのに何時間もじっと待ち伏せたりしなければならなかったからだ。
アダムの家は、猫にとってぐあいがよさそうに見えた。
ネズミはアダムがたくわえている食糧に引き寄せられる。
その近くにいれば、あるいはアダムの素敵な暖かい家の中にもぐり込めば、ネズミをつかまえられるだろう。
しかもイブは小鳥の歌を聴くのが好きで、地面に穀物を投げて鳥を集めている。
ここにいれば、長いあいだ冷たい草むらで待っていなくても、鳥は向こうから寄ってくる。
そこで猫はアダムのところに行き、相談をもちかけた。
「アダムさん」と猫は言った。
「あなたの食糧が食べられたり、汚されたりしないように、わたしがネズミをつかまえます。
そのかわりにわたしが望むのは、火のぬくもりと、寝床と、ときどきミルクを少しばかり分けてもらうことだけです。」
アダムは猫を信用していなかった。
太陽の光のもとでは猫の瞳が線のように細くなり、それがヘビを思い出させたからだ。
よこしまなヘビと取引したおかげで、自分の家族はエデンの園から追われたのだ。
「イブの小鳥たちはどうなる」と彼は尋ねた。
「おまえは森で鳥をつかまえ、殺して食べているじゃないか」
猫は嘘をついた。
「わたしがつかまえるのはネズミだけで、鳥には手を出しません」
そしてずる賢い猫は、犬の真似をして尾を振った。
犬そっくりには真似られず、ヘビのように細かくピリピリと振ることしかできなかったが、尾を振れば正直に本当のことを言っているように見えるのを知っていたのだ。
アダムはそれにだまされ、取引に応じた。
猫はやはり嘘つきだった。
たしかにネズミは獲ったが、アダムとイブがいないときを見計らって餌に集まる鳥に忍び寄り、つかまえては殺した。
だが、猫は鳥を森に運んで食べていたので、イブはその仕業に気づかなかった。
ある暖かな日、イブは家の中にいて、犬は庭で寝ており、アダムは近くの囲いで羊の毛を刈り込んでいた。
猫は穀物をついばんでいる一羽の鳥に気づき、つかまえて殺した。
獲物をくわえて逃げようとしたとき、イブの足音が聞こえてきた。
猫はまだ温かい鳥の死骸を眠っている犬のそばに落とし、急いで遠ざかると自分も眠っているふりをした。
血まみれの鳥を見つけたイブは、ひどく腹をたてた。
「猫、おまえがやったの?」
猫は言った。
「いいえ、やったのは犬です」
そしてヘビがくねるように尾を振った。
イブはだまされて、猫は正直に本当のことを言っているのだと考えた。
イブはホウキをつかむと、犬を打ちすえてののしった。
「今晩の夕食はぬきよ」と言い、罰として犬を凍てつく家の外につなごうとした。
この騒ぎを聞きつけたアダムは、何か起こったのかと急いで戻ってきた。
ことの次第をイブから聞くと、彼は犬に向かってそれは本当かと尋ねた。
「眠っていたら、イブに打たれて目が覚めたんです。
わたしは鳥を殺してはいません。
でも鳥の餌がある場所に猫が忍び寄っているのは、ちょくちょく見かけました」
と言って、犬は尻尾を振った。
尾を垂れたままの控えめな振り方だったが、アダムには犬が本当のことを言っていると思えた。
だが、彼が猫にも同じことを尋ねると、猫は嘘を言って尾を振った。
「尻尾を見るかぎり、おまえたちはどちらも正直者のようだ。だが、どちらかが嘘をついているのは間違いない」
「猫は尻尾でさえも嘘つきなんです」と犬は言った。
「犬の尾の振り方を見てください。
わたしたちの尻尾はいつもまっすぐです。
真実と天国のあいだの一本道のようにね。
わたしたちの尻尾は神さまの風になびく葦のように揺れます。
猫の尻尾をごらんなさい。
猫に嘘のつき方を教えたヘビのように、曲がりくねって動きます」
アダムはそれを目でたしかめ、理解した。
「わたしは自分が見たものを誤解していた。
犬が尾を振るのは正直のあかしだが、猫が尾を振るのはわるさをたくらんで、だまそうとしている証拠だ。
犬よ、猫が尾を振るときはよこしまなことを考えているにちがいないから、見つけしだい罰していいぞ」
猫は
「わたしの言っていることは本当です」
と抗議したが、いまや嘘をつくときは尾を振るのがくせになってしまっていた。
猫が尾を振るのを見ると、すぐに犬は猫めがけて走り出し、木の上まで追いつめた。
それからというもの、犬は猫を追いかけるようになった。
犬は猫がわるさをしないように、尻尾の動きを見張っているのだ。
この物語の魅力は、そこに重要な真実が含まれている点にある。
と言ってもアダムとイブの真実ではなく、犬と猫の真実だ。
犬は犬語を、猫は猫語を話し、同じ信号や合図が正反対の意味をもつことが多い。
犬と猫のあいだの敵対心や不信感は、彼らがおたがいの言葉を誤って解釈しているせいではないかと、私には思えてきた。