皮膚病が原因で安楽死を命じられた犬

エピソード

 

少し前のドイツでの話しです。

7歳になる秋田犬シーザーは南部バイエルン州にある「動物の家」で生活していたところ、

ある目突然「5日間以内に安楽死をさせること」と地元の役所から言い渡されることになりました。

 

役所がシーザーを安楽死させる決定を下したのは、

「皮膚病でほとんど目も見えない犬を生かしておくのは動物虐待だ。苦痛を和らげよ」という理由からでした。

ところが、シーザーに愛着を感じ、育ててきた人々は猛反対。

 

以来2年以上にわたり、この一匹の犬をめぐり、動物愛護団体だけでなく、役人、法曹関係者、獣医、地元政治家を巻きこむ論争となったのです。

 

最初は地元新聞が小さな記事でとりあげていたのが、いつのまにか全国放送の民間放送局や公共放送局が次々に「シーザーを救え」と取材にかけつけました。

 

「はだかの茶番劇」という見出しの記事とシーザーのカラー写真が、地方紙に載りました。

シーザーは生後まもなく体毛が抜けてしまいました。

しっぽの先のわずかな毛を除いて、体じゅう薄ピンク色でまったく毛が生えていません。

遺伝性の皮膚病のため、外見は犬というよりハイエナに近い姿。

「メキシコ毛なし犬」という種類の犬にも似ています。

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シーザーがニュースに登場して以来、ドイツ全国から秋田犬の飼い主たちが、「うちの秋田犬も同じような症状で毛が抜けてしまった」とコンタクトしてきたそうです。

毛が抜けてしまう病気は遺伝性のため、他の秋田犬にもみられたそうです。

 

目が充血し、うつろな目つきでカメラのほうを見てているシーザー。

 

もともとシーザーは、ほかの兄弟2匹とともに子犬のころ、チェコとの国境で検閲にあった車のトランクからみつかり、ドイツの税関に没収され、その後、ドイツ南部バイエルン州の田舎の「動物の家」にひきとられてきました。

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2年前、市当局の役人からシーザーを安楽死させる決定が下されて以来、役所から追われる「逃亡犬」の身になったシーザーの居場所は秘密にされてきました。

 

シーザーの居る「動物の家」は、オーストリア国境に近いドナウ川沿いの町パッサウ郊外にありました。

「動物の家」の館長であるアロイスーアルト医師に紹介されました。(人間の)内科医であるアルト医師は、動物好きか高じて夫人とともにボランティアをしていました。

 

地元の獣医局は、「行政命令にそむくとは。命令に従わない場合は提訴も可能」と伝達してきました。

「命令にまったく応じない場合は罰金!」とあるいっぽう、シーザーを救いたいのなら、2ヶ月ごとに犬の皮膚病専門医に診察させることと申し渡されました。

 

しかし、「犬の皮膚病専門医」など、いるのだろうか?

アルト医師は、「苦痛に苦しむ犬を安楽死させないとは、動物虐侍だ!」という理由で検察庁から起訴されそうにもなりました。

 

官僚が指定した獣医はシーザーについていずれも

「生きるに値しないので安楽死させるべき」

と判断を下しました。

 

その決定を覆すために「動物の家」のスタッフはライプチヒの獣医、さらにウィーンまで専門医の中立的な診察を受けに行きました。

追われる身のシーザーは、見つかると「強制連行」される可能性があるので、ウィーンに行くときは真夜中にこっそり出発しました。

 

アルト医師の手元には2年間の「闘い」が記録されたファイルが10冊も並びました。

すでに行政側と司法側とのやりとりだけでもおびただたしい時間が背やされました。

 

市議会選挙のときは

「シーザーを救います」というスローガンを掲げた候補者もいたほどです。

「動物の家」のスタッフは、「私はきっとシーザーを救います」という候補者の選挙運動に加わったそうです。

 

それにしてもたった1匹の犬をめぐり、地方官僚、検察と弁護士、数人の獣医などが貴重な時間を割き、テレビは「かわいそうな皮膚病犬」についての番組を放送するとは。

みんなほかにもっと重要な仕事はなかったのだろうか?

『ドイツの犬はなぜ吠えない?』より引用

 

 
安楽死を強制するほかに重要な仕事はたくさんあると思います。

しかし、

たった1匹の犬にこれほど大騒ぎするお国柄が羨ましくもあります。

 

犬の皮膚病やカイカイに効きました。
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